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Where Eskimos Live ボスニアの青い空

ポーランド・イギリス映画 (2002)

撮影時、10才くらいだったセルギウス・ズィメルカ(Sergiusz Zymelka)と、イギリスの名優ボブ・ホスキンス(Bob Hoskins)の2人が内戦状態のボスニアを脱出してワルシャワに向かうロードムービー。チビの割に反抗的、小生意気なヴラドと、ユニセフを騙った人さらいのシャルキィの奇妙な2人組が面白い。といってもコメディではもちろんなく、前半は内戦の苛酷さ、最後は臓器売買と重いテーマの映画だ。NHKが制作に関与し、BS放送で放映されたたが、国内でのDVD発売はない。邦題は、映画の内容とはかけ離れた『ボスニアの青い空』だ。悲惨な内容なのに「青い空」とは不見識。原題は『エスキモーの住む所(Where Eskimos Live)』。主人公のヴラドが行ってみたいと切望している場所だ。

旧ユーゴスラビアは1990年に共産主義独裁の崩壊後、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボで凄惨な内戦が続いた。いずれもセルビア系住民との主導権争いがその主因である。映画の舞台となっているボスニア・ヘルツェゴビアの紛争は1995年10月13日にNATOの徹底介入で停戦が実現した。映画の冒頭では、「ボスニア 1995年」とだけ表示されるので、停戦の前後のどちらかは判然としない。ボスニアは、ボスニア・ヘルツェゴビナの北部の地域名だが、どの程度正確かも不明である。映画の中で地名はほとんど出てこないが、1つだけ「左、サラエヴォ、直進左コニツ、右ネウム」の道標が街角に立っている。そして、その後で、コニツに寄っている。最後は、この近くからクロアチアへと抜けていく(コニツはヘルツェゴビナ地区)。ただ、最初に会いに行くドラゴン・ドラギッチ(Dragon Dragicz)はボスニア人の名前なので、ヘルツェゴビナに近いボスニアで子供を見つけ、ヘルツェゴビナに入った(途中で検問を抜ける)のであろう。因みに、私は、クロアチアもボスニア・ヘルツェゴビナも(北のスロベニアや南のモンテネグロも)旅行したことがある。戦争さえなかったら、美しい場所だったのだが。

ユニセフの孤児救出員を装ったポーランド人のシャルキィは、ボスニア・ヘルツェゴビアの紛争地帯で、金儲けのために9才の健康な少年を1人ポーランドに連れて行こうと、危険を顧みずに乗り込んで行く。何のためかは聞かされていない。ところが、現地での少年調達係は、到着の数日前に殺されてしまいっていた。あてどなく、破壊された土地を歩いていると、孤児の一団に遭遇する。その中の一番のチビがヴラド。ボスは反対するが、ヴラドはこっそり抜け出し、シャルキィと一緒に紛争地を抜けて国境へと向かう。2人の逃避行の脚本は、実によく出来ている。最後にようやくクロアチアに入り、列車で一路ポーランドへ。しかし、そこで分かったことは、ヴラドが腎臓移植のために連れて来られたこと。腎臓は2つあるので、摘出されても死ぬわけではないが、臓器売買には違いない。シャルキィの良心が目覚め、命がけでヴラドを救い出す。

セルギウス・ズィメルカは、ボスニア・ヘルツェゴビア人ではなくポーランド人。確かに顔がポーランド的だ。逞しく生きてきた戦争孤児を好演している。口が悪く、文句は言い放題だが、根は優しくて、男気もある。見ていて、応援したくなる。時折見せる笑顔は、とても可愛い。


あらすじ

バスで、紛争地の奥深くまで入ったシャルキィ。軍の検問で全員バスから降ろされ、外国人ということで一人だけ徹底的にチェックされる。「国連かい?」。「違う。ユニセフだ。知ってるか?」。「知らんな。俺達は兵士だ」。「あんたらの戦争なんか、知った事じゃない」「命がけで、あんたらの子供を助けに来てる」「だから、邪魔だけは しないでくれ。いいかな?」とシャルキィ。荷物の中に入れてあったタバコを2カートンとも取り上げられる。「キャメルを返せ」。「子供のそばで吸うのは、文明的じゃないな」。屁理屈もいいところだ。バスはとっく出てしまっているので、そこから歩くしかない。幸い、目的の町までは近く、しかも、バイクに乗せてもらえた。教えられた番地の家に入っていき、「ドラゴン・ドラギッチを探してる。子供を渡してもらう約束だ。どこにいる?」と尋ねる。しかし、「ドラゴンは、浴室にいる」と言われ行ってみると、死んでいた。「奴が約束してたガキはどこだ?」。「ロシア語を話す2人のトルコ人に殴り殺された。可哀想に」。「可哀想だと? その馬鹿野郎は、ガキを用意すべきだった」。
  
  

一方、ボスニア最南部のとある町の廃墟。戦争孤児の一団が、軍隊の食料庫を狙って、一番チビのブラドに、窓を割って侵入させる。中にある一杯の食料にニンマリするブラド。調達係の特権で、ソージーを折り取って満足そうに食べる。しかし、窓から出る時に手を切ってしまい血だらけに。隠れ家に食料を持って帰ると、早速みんなへの分配だ。さっき窓から助け出してくれたシュマイアは知恵遅れ。だから、ボスは、「失せろ、シュマイア。うすらトンチキ」と分配してくれない。とっさにブラドは缶詰を掠め取り、シュマイアと2階へ。置いてあった地球儀に電気を点け、「僕らは… ああ、ここだ」とヴラド。「みんな?」「こんな 小さなトコ?」「どこ 逃げられる?」とシュマイア。ヴラドが指したのはノルウェー。「エスキモーの住む所だよ」「忘れた?」。映画のタイトルが使われる重要な場面。ヴラドがノルウェーに行きたがる動機なのだ。
  
  
  

シャルキィは、またまた軍隊に捕まり、隊長の元に。ところが大佐は、ジープに乗せたミニ・ピアノを娘に弾いてやっている。「自分のお子さんは以外は、知った事じゃない?」と非難するシャルキィに、「カリカリしなさんな」と言ってパスポートを取り上げる。荷物も取られ、ジープに乗れと言うので抵抗するシャルキィ。2週間前に妻が戦死し、娘と2人だけになった大佐は、好機到来とばかりにシャルキィに迫る。「娘はまだ子供だ。ここは戦闘中。ドイツに友人がいる。あの子を連れてってくれ。金は払う。頼む」。「できん」と言うシャルキィに、「できるさ。やらんのなら、お前はスパイって事になる。スパイなら、即座に処刑だ」。仕方なくOKしたシャルキィに、大佐は、娘のパスポート。手紙とドイツの住所を渡し、シャルキィは自分のパスポートを取り戻す。ご機嫌の大佐だったが、その時前方で大きな爆発が起きる。実は、孤児の一団が、事前に地雷を埋めておいたのだ。娘ごと吹っ飛んだジープ。ジープの残骸に走り寄り、立ち尽くす大佐。ヴラドは、そこで軍用の地図を手に入れる。
  
  

戦争孤児の一団に目をつけたシャルキィが、団らんの場に寄って行き、声をかける。「一緒に いいかな?」。「どこから来た?」と訊かれ「ノルウェー」と答える。急にヴラドが興味を持つ。「ユニセフだ。知ってるか?」との問いに、「何か くれるトコだ」。「もう やってない。今は、孤児の出国を手助けしてる」。「ノルウェーにエスキモーいる?」。シャルキィは、「小さな男の子を、一人連れて行ける」と言うが、ボスは、知恵遅れのシュマイアならいいと言う。「ダメだ」とシャルキィ。「『小さい子』だ」。「まだ、小さいぞ。寝小便するからな」。男は去っていったが、ヴラドはノルウェーのことが忘れられず、早朝起きて考えた末、横に寝ているシュマイアのことを心配しつつ、孤児の一団から立ち去った。そして、男を待ち構えていて声をかける。「僕は どう?」。「年は?」。「9つ」。「健康か?」。「うん」「小さいよ」。「いいだろう。来い」。焚き火をして休んでいる時、ヴラドが兎を見つけた。ナイフを投げる男。兎から逸れ、幹に刺さったナイフを引き抜き、「ユニセフじゃないね」。「そうだ。違う」。
  
  
  

たとえユニセフでなくても、歩いてでも、野宿しても、ヴラドにとって、旅をすることは楽しいことだった。一方、ヴラドの抜けた孤児の一団に大佐がやってくる。「10秒やる。犬みたいに撃ち殺すぞ」。「何も知らないよ、隊長さん。俺たちも、くそ野郎に盗まれた。消えやがった」。隊長は、ユニセフの男がジープに乗るのを拒んだのは、地雷があることを知っていたからだと曲解し、復讐を誓った。中古車を売っている場所に辿り着いた2人。シャルキィは、いい車が半額になっているので、その気になる。しかし、ヴラドが「だけど、ガソリンは?」と訊くと、店主は「カラ」。ヴラドはシャルキィを、脇にあったボロ車に引っ張って行き、「こっちは、35リットル入ってる」。歩くのと比べ格段に早くなったスピード。ヴラドは、サンルーフから体を乗り出し大はしゃぎだ。
  
  

途中で寄った被災した町が、冒頭に書いた道標のある町だ。上から「← SARAEVO」「↵ KONJIC」「NEUM →」と書いてある。そこで会った男がユニセフのバッジを見て、「子供、助けてるのか?」。「そうだ」。「こいつ?」。「孤児なんだ」。2人はパーティに連れて行かれ、シャルキィは酒を何杯も飲む。「飲み過ぎはダメ」とヴラド。「何だ?」とシャルキィ。ヴラドは食べ物の皿を渡し、「僕は、運転しない」と諌める。しっかりした子だ。会場を離れる時、シャルキィが「大丈夫 何とかなる。食い物は ないがな」と言うと、「そうかい? 10リットル積んどいたよ」。「ウォッカを?」。「ガソリンだよ。酔っ払い」。そう言って、車のトランクを見せる。パン、ハムの塊、野菜などがぎっしりだ。「大したもんだ。名前 あるのか?」。「うん、ヴラド」。「シャルキィだ」。一方の大佐は、中古車屋で、背の低い男がボロ車を買ったことを突き止めていた。
  
  
  

翌朝、シャルキィが寝ている間に起き出したヴラドは、近くにあった死体の山を発見。逃げるどころか近づいて行き、死体のおばあさんが口に隠していた金のネックレスをぬいぐるみの熊のお腹に隠す。お腹には、他にも金製品が入っていて、これまでも彼が、逞しく、かつ、容赦なく生きてきたことが分かる
  
  

難民達が歩いてくるのとは反対方向にノロノロ走っていると、けが人を連れた男に呼び止められる。「友達が出血してる。医者に行かないと」。そして、車に勝手に乗り込む。やがて、チェックポイントがあり、兵士が警備している。銃を突きつけて突破しろと迫る男。ユニセフのパスポートは有効だったが、後ろの2人は身分証がないので全員車から降ろされる。すると2人は、突然シャルキィとヴラドに銃を突きつけ、「行かせろ。さもないと、頭を吹き飛ばす」と兵士を脅す。しかし、陰には10数名の兵士が隠れていて、2人はすぐに射殺される。ブラド達は、死体を2つ残してチェックポイントを通過。そのまま山道を一日中進んで野宿する。シャルキィがブラドの袋の中を見ると、そこには、エスキモーの絵と、ぬいぐるみの熊と、父母と一緒に映った写真が入っていた。
  
  

翌日、「NOVA LEŚNICA」まで9キロという道標まで来る。これは架空の村だ。村に行き、奇跡的に営業している宿屋に入る。「いらっしゃい。長くお泊り?」。「夕食だけだ。あるかね?」。「もちろん」。風体を見て「シャワーも ありますよ。1分で2マルク」。シャルキィは、何の気なしに「全部込みで」と答える。「『全部』だと高いわよ」と眉を意味有り気に見せるマダム。微妙なやり取りだ。でも、勘のいいヴラドには分かってしまう。「なら… ここで、一晩泊まっていこう」と言うシャルキィに対し、「急ぐの、止めたの?」と冷たく答える。「ベッドで寝たいと思わんのか?」。それに対し、アイスクリームにも手を付けず、「僕、なあんにも知らないガキだもんね。だろ、シャルキィ?」と捨て台詞を残して部屋に行く。すごい子だ。ヴラドが寝た頃、シャルキィが若い娘を連れて部屋に入ってくる。マダムの行っていた「『全部』だと高いわよ」には、娼婦も含まれていたのだ。ベッドはヴラドが占領している。「この子、どうするの?」。「爆撃でも 起きないさ」と言って、シャルキィが布団ごとベッドから転がり落とす。ヴラドは目を覚まし、2人の話を聞いている。セックスが終わり、「もっと、ここにいて」と頼む女性。「無理だ」。「1日でも」。彼女は諦めて服を着ると、「考えてみてね、愛しい人」と言って出て行く。ヴラドは、ベッドの下から這い上がると、シャルキィの横にぴったり寝て、「考えてみてね、愛しい人」とすました顔で言う。シャルキィに、「ナマ言うな」とベッドから落とされるが、思わず笑ってしまうシーンだ。
  
  

“安全地帯” に向けて、ひた走る車の中でヴラドは考え込み、「シュマイアにしてた方が?」と質問する。「誰だと? あのアホか?」。「アホじゃない」「彼じゃダメだったの?」。「ダメだ」。「何でさ?」。「黙れ! 何が言いたい?」。「きっと、彼、困ってるだろうから」。「物事ってのは、いつだって、何とかなるもんだ」「そうだ」「お前にやる」「タダでいい」と言って、ナイフを渡すシャルキィ。コニツの町を見下ろす丘の上まで到達し、「もうすぐだぞ、ヴラド」と喜ぶが、「そうだね」というヴラドは、なぜか醒めている。これから警察に行くので、顔を洗い、こざっぱりとしているが、それがシュマイア申し訳ないのかもしれない。
  
  
  

その反動が、一気に現れるのがコニツでの場面だ。町の階段でしばらく待たされていたヴラド。シャルキィが警察に行ってきたことは、もちろん知っている。「警官へのワイロって、幾らぐらい?」。「すごく高いぞ」。「高すぎる?」。「まあ、値切れば、高すぎることはない」。そして、シャルキィはヴラドに言い聞かせる。「よく聞け」「お前の名前は、マレク・ノヴァクだ」「いいな?」「お前は俺の甥で、国際結婚で出来た子だ」「父親はポーランド人、母親はボスニア人」「母親は最近亡くなり、父親は数年前に死んだ」「ポーランドの親類が、お前を養子に望んでる」。「もう、ヴラド・ペトリッチじゃないの?」。「どうでもいいだろ。後で、また変えりゃいい」「だが、今は、マレク・ノヴァクだ」と言って歩道に石で名前を書く。次の場面は、署内で。警官に、「君の伯父さんの話では、ポーランドの親類に引き取られたいんだね?」と訊かれ、「そうです」とヴラド。「身分証がないんだね?」。「焼かれました」。「お父さんはポーランド人だった?」。「話し合ったことはありません」。「そうか。で、君の名前は?」。そこで、ヴラドは、わざとはっきり、本名を名のる。警官の顔色が変わり、「おい、どういうつもりだ。何て名前だと?」とシャルキィに食って掛かる。それを見ていて、再度、はっきりと本名を名のるヴラド。最後の場面は、署外で。シャルキィはヴラドの髪をつかみ、「気は確かか?」と怒鳴る。「あの野郎には、アメリカの金で千ドル渡したんだぞ!」。そして、シャルキィは、もう一度署に戻って、①ポーランド人だと言えなかった。殺されるのが怖かったから、②名前はノヴァク、の2点を言えと強く迫る。それに対し、「いやだ」と突き放す。「なぜだ?」と訊かれ、「だって、(本名を言うのは)正しいことだから」。2人は決裂し、ヴラドは逃げ去る。
  
  
  

駅に来たヴラドは列車に飛び乗る。因みに、町の名をコニツと断定したのは、駅の線路の表示から。シャルキィは元来た道を引き返す。そして、場面は切り替わり、廃墟の町をヴラドが歩いている。この映画の唯一の弱点は、なぜヴラドがすぐ列車を降りたか? そして、降りた町になぜシャルキィが偶然来たのか? 普通なら、二度と会うことはないはずだ。それはさて置き、ヴラドは偶然、シャルキィを見つける。しかし、別な方向に行こうとすると、軍隊がいるので慌てて壁に張り付くように隠れる。そこに戦車が現れ、停めてあったシャルキィの車を踏み潰す。ユネスコの身分証を見せたので、兵長は、「結構です。車は申し訳ない」「戦車の指揮官は、あなたが逃亡しようとしたと考えたのだ」。こうして無事に済みそうだったが、潰された車内からヴラドの持っていた軍用の地図が見つかり、情勢は一変、「スパイだ」「処刑しろ」。自分の責任だと思ったヴラドは、その兵長に寄って行き、何事か囁く。しかし、兵長は、「構え」と言い、銃弾が薬室に押し込まれる。射殺寸前だ。祈るシャルキィ。その時、兵長が建物の中に入って行くので、ヴラドも後を追う。しばらくして出てきた兵長は、「間違いだった。行くぞ」と言って去っていく。崩れ落ちるように地面に伏せるシャルキィ。それほど怖かったのだ。ヴラドに「どう やったんだ?」と訊く。「何も。頼んだだけ」。「それで承知した? あっさりと?」。「あのね、子供の涙は、心を動かすんだ」。「子供の涙?」。そこで、ヴラドは熊のぬいぐるみを放り捨てる。お腹のチャックの中は空だ。これまで苦労して集めてきた金製品と交換にシャルキィの命を救ったのだ。ポケットからタバコを出してやり、口にくわえさせ、火をつけてやるヴラド。そんなヴラドを思い切り抱き締めるシャルキィ。泣き出すヴラド。2人が堅い友情で結ばれた瞬間だ。
  
  

場面は、野宿の後の朝に変わる。渓流で簡単に顔を拭っているヴラドに、シャルキィの声が飛ぶ。「首の後ろと、尻も洗えよ」。「なんで?」。「悪臭がする」。ムッとして腕を組むヴラド。「母さんは、何も 教えんかったのか?」。「死んだ」。「家族はどうなった?」。「パパは税関の職員だった。でも、制服を着てたから 間違われたんだ。奴ら戻って来て、ママも連れてった。英語が上手だったから。先生だったんだ」。「教育が足りんかったな」。「シャルキィ、あんたと僕って、手ごわいね」。「ああ、猛烈にな」。その後、執拗に追いかけてきた大佐に襲われ、シャルキィは殺されかけるが、相手の隙をついて目に砂をぶつけ、ベルトで思い切り顔を叩き、ナイフで仕留めた。確かに手ごわい。
  
  

次に訪れた村の酒場で、一人タバコを吸うシャルキィ。農民たちに混じってお酒を飲んでいたヴラドは、一杯機嫌でシャルキィの様子を見に来る。シャルキィ:「誰なんだ?」。ヴラド:「農民」。「何を話してる?」。「農家の話」。小生意気なところが楽しい。シャルキィが頭にきて襟をつかんで引き寄せえると、額をはたいて逃れる。手ごわい。そしてまた、飲みに戻る。酔っ払ってフラフラのヴラドに、「へべれけだな」。「あんたは、母さんでも父さんでもない」とヴラド。
  
  

そのまま、店を出て、ふらつきながら橋にさしかかる。「ここから出る前に、アルコール中毒で死ぬなよ」とシャルキィ。歩けなくなって、座り込むヴラド。「ラップでくるんどけば、きっと無傷だよ」「犬を助ける方がマシだね。文句言わないから」。「黙っとれんのか? こっちは、お前をここから出すため、必死なんだぞ」。「僕なんか、どうでもいいんだろ?」。あまりに的を得ているので、シャルキィには返す言葉がない。その後のクロアチアとの国境は、何とか通過でき、やっとポーランド行きの鉄道に乗ることができた。
  
  

寝台車の中で、ヴラドは、残してきたシュマイアが殺される悪夢を見て、シャルキィに起こされる。「何を、叫んでた?」。「また悪夢なんだ」「夢見てた、あんたの夢だよ」と言って、話を切り替えて笑う。「最初の妻は、俺と再婚する夢を見て 叫んでたな」とシャルキィ。すると、ヴラドがシャルキィに擦り寄ってきて、「考えてみてね… 愛しい人」と甘える。今度の “真似” は歓迎された。息がぴったり合っている。
  
  

ワルシャワに着き、ホテルにチェックイン。窓を開けて、それなりの都会ぶりに、「たくさんの人、たくさんのビル」と大喜び。パスポート用の写真をインスタント・カメラで撮ろうとするが、おどけてなかなか撮らせない。
  
  

シャルキィが、その写真を持って行った先は、郊外の豪邸。そこで、仲介役に「これが必要な医学検査のリストだ。通常より少し多いから、結果が出るのに数日かかる」と言われる。「その先は?」。「後は、こっちで面倒を見る」。「何で、こんなに検査を? 宇宙飛行士にでも する気かね?」。「君に関係ないことに、気をまわすな」「検査して金をもらう、それで終わりだ」。しかし、医者にも、「なぜ、こんなにたくさん?」「この子に、何をするんです?」と尋ねられ、「何も分かりません。しばらく、預かってるだけなので」と答えるものの、心配になり始める。注射が怖くて、頼りなげなヴラド(1枚目の写真)。針が刺さると、気絶してしまう。案外可愛い。再び仲介役と会うシャルキィ。「検査の時、医者に、腎臓を提供するのかと訊かれた」「腎臓移植のための検査だと」。「余計なお世話だ」。「もし、あの子を予備の臓器にするんなら、俺のリスクもずっと大きくなる」「つまり謝礼も違ってくる」。「額を変えろと?」。「その通り」。「どのくらい?」。「2倍。最低でも」。シャルキィは、ホテルの部屋に戻ると、ヴラドにパスポートを渡してやる。それは、「ヴラド・ペトリッチ」名のパスポートだった。感慨深げに見入るヴラド(3枚目の写真)。「どうやって手に入れたの?」。「この町なら、思いのままだ」。「で、僕、どこへ行くの?」。「まだ分からん」。どうしていいか分からず、ミニ・バーのお酒を飲むシャルキィ。
  
  
  

悩むシャルキィが名案を思いついたのは、街角で、「私はエイズです。ご寄付を。ありがとう!」というダンボールを置いて、座り込んでいる男を見た時だった。血を分けてもらい、ヴラドの検査結果を捏造するのだ。検査結果の受領所で、引き換え券を渡す。結果を渡そうとした係の女性が思わず、「何てこと」と漏らす。そして、ヴラドを見て「こんな小さな子が」。脇で見ていた監視役が、検査用紙を取り上げる。一目見て「くそっ」「エイズの子供なんか連れてきて」と言って出て行く。ヴラドも紙をじっと見て、「僕… エイズなの?」と不安そうに訊く(1枚目の写真)。シャルキィは、「ああ、俺だってペストだし」。シャルキィは捕まる前にチェックアウトしようとするが、間に合わず、ホテルの裏に連れて行かれて、金を返せと迫られ、「使っちまった」と言うと、半殺しにされる。ゴミ箱で思い切り叩かれ、「金が消えると、シャルキィも消える」と最後通牒。明日渡さなければ命はない。部屋から荷物を持ってきたヴラドが、ゴミ捨て場で血まみれになっているシャルキィを見つけ、思わず鼻の頭にキスする。「痛い!」と叫ぶので、「折れたの?」と訊く。しかし、上着に隠してあった2番目のパスポートは無事だった。これで、即刻、国外へ脱出できる。
  
  

シャルキィは、ボスニアで、大佐に渡されたドイツの住所にヴラドを連れて行く。首の頸椎カラーが痛々しい。大佐からもらったものの中に、写真やら手紙があったので信じてもらうのは容易だ。しかも、本人は自分で殺したのだから、嘘がバレる心配はない。大佐とは、兄弟同然で、家族全員が殺された時自殺しようとしたのを止めたが、結局死んでしまったと話す。ヴラドのことは、大佐の甥で、もしもの時はここへ連れて来る約束をしていたと紹介。郊外の別荘風の家に住む裕福な男女に子供はいないようなので、ヴラドも幸せに暮らせそうだ。男性に名前を訊かれ、堂々と本名を名のるヴラド。「僕を、放り出す?」と訊く。「女の子の はずだった」とは言われるが、頭を優しくなでられるので、受け入れられたことになる。
  
  

一人帰るシャルキィを見送りにきたヴラド。「移民なんか」と言って、思い切りシャルキィに抱きつく。首が痛いので「やめてくれ」と頼むが、ヴラドに「シャルキィ」と助けを乞うように呼ばれ、「こういうのは、苦手なんだ」。そして、「ダメだ、行け!」と突き放す。ヴラドは、悲しげに家に戻って行ったが、すぐに荷物を持って戻ってきて「少し ドライブしよう」と言い出す。「どうするんで」とタクシーの運転手に訊かれ、シャルキィは「どこへ?」とヴラドに訊く。「ノルウェー。エスキモーの住む所」とヴラドは答え、ニヤリとシャルキィを見上げる。「分かった。だが、ゆっくりやってくれ」。嬉しそうにシャルキィに寄りかかるヴラド。2人はこれからもずっと一緒だ。
  
  

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